大きな爆発音でレイルは目を覚ました。ベッドから飛び上がり、慌てて下の様子を覗く。一階の工房は黒い煙で覆われており、天井にまで拡がっていく勢いだ。
「おい、シド。こいつはあんたの仕業か」
言葉を投げてみるも、彼からの返事はない。代わりに聞こえたのは苦しそうな咳だった。どうやらこの場にはいるようだが、煙で何も話せない状態のようだ。レイルは右手に力を込め、工房のありとあらゆる窓や扉を開けた。黒い煙がゆっくりと空気の流れに沿って外部へ出て行き、やがて空間の全貌が見えてきた。
階段を使わず、一階へ飛び下りる。床に散らかっている工具や設計図を足で払いのけ、カウンターの裏で蹲っている丸い背中を軽く叩いた。
シドはこちらに気がつくと眼鏡のレンズを外した。「いやあ、すまなんだな、レイル」
「朝っぱらから何やらかしたんだよ」
「エンジンを組み立てようとしたんだが、手元が狂ってしまってな」
「こんなに目覚めの悪い朝は久しぶりだ」
シドは時計を一見する。「もうこんな時間か。どうりで腹が空くわけじゃわい」
「まさか寝ずにやってたのか?」
「もうすぐ完成しそうなんじゃよ。魔晶機関の百倍クリーンなスチームエンジンがな。完成前にはお前さんの力を借りることになる。その時は頼むぞ、クリスタルベアラー」
「分かったよ。とりあえず何か食え。完成する前に自分が倒れたら意味がないだろ」
レイルはテーブルに置いてあるパンを飛ばした。
「お前さんのその力、中身を知れば便利じゃな」
「危険視してるやつがよく言うぜ」
「それでどうだったんじゃ。美味いコーヒーを淹れるお嬢さんの正体は掴めたのか」
ああ、とレイルは思い出したように呟く。「彼女はクリスタルベアラーじゃない。ただ美味いコーヒーを淹れて客の笑顔が見たいだけの一般人さ」
「そうか。やはりクリスタルベアラーというのは稀有な存在なんじゃろうな」
「だからこそ」レイルは抑揚をつけた。「誰かがベアラーだなんて妙な詮索はしないほうがいい」
「確かに、その通りかもしれん」
レイルは周囲を見渡した。「クァイスはどうした。次の仕事まで予定はなかったはずだ」
「やつなら今朝早くに出て行ってぞ。なにやら様子がいつもと違うようだったが、ワシもこいつを触っていたからな」シドは開発中の蒸気機関を軽く叩いた。「詳しいことは知らんが、あの兄ちゃんのことだ。誰かさんと違って騒ぎを起こすようなことはしないじゃろう」
「そりゃあ悪かったな」
レイルは椅子に座り、余っているパンに手を伸ばした。テーブルには恐らくクァイスが読みかけていたであろう新聞が置いてある。今朝発行されたばかりのもののようだ。手に取って見てみると、見出しには『ついに完成。新造飛空客船アレクシス号』と記されてあった。写真にはドッグを背景にアレクシス号が停泊しており、飛空挺の前には開発に携わった技師たちが並んでいる。どれも真面目そうな顔ぶれだ。文章にはクァイスから聞いたとおり、終戦記念日当日に新型を飛ばすことがまとめられている。国にとってはこれ以上にない朗報だろう。
他の記事は以前と変わらず、三日後に差し迫った終戦記念日に向けての内容が綴られている。
レイルは視線を滑らせ、別の誌面へと目を通す。気になる記事がひとつ見つかった。
昨夜未明、監獄砂漠付近でセルキー族の男が気絶している状態で見つかった。命に別状はないとのことだが、気になる点は彼が脱獄者ではなく、ただの一般人であるということだ。
これは偏見でも何でもないが、監獄砂漠へ収容されている人間はほとんどがセルキー族だ。罪名は人の数だけあるが、なかでも多いのが器物破損だと聞く。窃盗を職業とする彼らだ。罪の意識もなく繰り返している所業だが、気絶していた男には前科はなかった。
クァイスから以前、こんな話を聞いたことがある。日頃から窃盗犯だと疑われやすいセルキー族は余程な理由がない限り、監獄砂漠へは近づかない、と。もしも新聞の男がクァイスと同じ考えであれば、安易に足を踏み入れないはずだ。
――余程の理由があったのだろうか。
レイルが目を留めた理由は他にもある。男が気絶していた原因は酒でもなく、薬でもない。セルキー族の男は数秒の間、心臓が止まっていた状態だったというのだ。そして監獄砂漠内で警備をしていた兵士が倒れている彼を見つけたとき、何者かが走り去った音を聞いたとも記されている。実際、現場には第三者と思われる足跡が残されてあった。調査の結果、大きさや靴の種類からして、若年のクラヴァット族の女だと断定された。
レイルは新聞を畳み、テーブルへ置く。
「ついに完成したんじゃな、新型の豪華飛空挺アレクシス号が」シドが隣に来て言った。
「ああ。あんたの技術の恩恵そのものさ。どうですか、ご感想は」
「いまの王都とワシが開発している機械は、用途が同じでも見据えている未来が違う。しかし技術が進歩しているという点では嬉しい限りじゃな」
「三日後、そのアレクシス号の護衛につく。どんなもんか偵察してきてやろうか」
「なに? アレクシス号の護衛じゃと」
「クァイスから聞いてなかったか。あいつの差し金で俺も呼ばれた」
「お前さんが関わると――」シドは口を結んだが、レイルは続きが分かった。
「ろくなことが起きない。そう言いたいんだろ」レイルは立ち上がった。「いいじゃないか。記念飛行で何か起こったほうが記者も喜ぶ。見出しがこれから楽しみだ」
「おい、レイル。どこへ行くんじゃ」
「悪いやつがいないかパトロールだよ」
レイルはガレージを抜け、王都へ向かった。行き先はカフェスペースだった。
先ほどの新聞を読んでいた時から不思議な予感がしていた。セルキー族の男を襲った者がクラヴァット族の女と知ったとき、真っ先に思い浮かべた人物はだった。
レイルの杞憂であれば、彼女は今日も変わらず店に立っているはずだ。
だが、彼女はいなかった。代わりにカウンターを守っていたクラヴァット族の男に問いただせば、休ませて欲しい、と通達が入ったのだという。生真面目なが曖昧な理由で仕事を休むことは考えられない。レイルは再びセルキートレインへ乗車した。
彼女から依頼を受けたあの日から、レイルは店に顔を出していない。それは決して意図的な考えではなく、単純に王都に向かう理由と用事がなかったからだ。がクリスタルベアラーであるからといって、避ける理由には繋がらない。
しかし今回はタイミングが非常に悪い。が、レイルたちに避けられている、と思い込んでいる可能性は十分にある。
彼女がクリスタルベアラーであるということは、最初から気付いていた。初めて会ったときから耳飾りの異様な輝きを見て、すぐに判った。
それでもクァイスたちに正体を明かさなかったのは、彼女が自身の秘密を守っていたからだ。わざとらしく髪を耳にかける仕草から、クリスタルを隠すために付けていた耳飾りを自ら外す行動まで。相手の注意を敢えて急所へ向かせ、逆に身を隠す手段さえも身に付けていた。それだけでの考える『世間が抱いているクリスタルベアラーへの扱い』は明確だった。
クリスタルベアラーは自らを守るために、人気の少ない場所を好む傾向にある。例外はもちろんある。レイル自身がそれを証明しているといっても過言ではない。
はどちらかといえば、レイルと近い存在に当たる。クリスタルベアラーでありながら、他人と接する機会の多い仕事を選んでいる。レイルと比べてクリスタルが隠しやすい場所に宿っている、という点においては便利ではある。だがリスクが高いことに違いはない。指摘されてしまえば言い逃れはできない。
が何をやろうが、何になろうが、全て彼女の自由だ。誰かが強要する権利はない。
だが皮肉なことに、この世界はクリスタルベアラーに選択肢など与えない。異なる種族として生まれてきても、血統よりも先に呪いが先行する。
自分にすら成りきれない。それがクリスタルベアラーだ。自己の存在価値を失い、ベアラーだと一括りにされる気持ちは当事者にしか解らない。
レイルは既にそこから脱していると思った。誰よりも自由に生きている気さえあった。
しかし家族である弟から罵倒を浴び、非難を受けるの姿を見て、そうではないと気がついた。自分はまだ自由を成りきっているだけだと。
そんな風に考えていた時だった。対向車線から囚人護送列車がやって来るのが見えた。だが通常の列車とは異なり、厳重且つ堅牢な造りをしている。あれは捕まった者がクリスタルベアラーであるときだけに利用される護送車だ。
こんなことを言うのも癪だが、レイルはあの列車に何度か世話になったことがある。見ての通り、景色を楽しむための窓はひとつも存在せず、中は薄暗くて居心地が悪い。複数の兵士に常に見張られる状態のため、迂闊に能力も使えない。
無論、自分は例外だが。
恐らく――ここまで考えてレイルは行動に出た。片手にクリスタルベアラーの力を込める。間もなくセルキートレインとすれ違うところで、護送列車に搭載されている緊急スイッチに触れた。列車は赤いランプを点灯させながらスピードを落とした。
レイルはすぐさま連結部分へ向かい、扉からセルキートレインの上へ飛んだ。逆風にあおられながらも天井を伝って護送列車へ飛び移る。生身の人間であれば怪我では済まされないが、こういうときクリスタルベアラーの性質を称えたくなる。
天井から下を覗くと、扉からリルティ族の兵士が出てきた。どうやら緊急停止の理由を探っているのだろう。線路や車輪などをつぶさに確認している。
音を立てないように地面へ着地し、兵士たちの様子を窺いながら扉付近まで近づく。
扉は開いている。だがやはりクリスタルベアラーを護送しているだけあって、車内には他にも兵士がいるようだ。話し声の数からして、二、三人というところだろう。
耳を済ませていると車内から、がんっ、と鈍い音が響いた。何かがぶつかった音だ。
「おい、このクリスタルベアラーめ」男の声だ。「この状況を作り出したのはお前か」
「知りません」
微かに若い女の声が聞こえた。レイルは踏み出そうとしたが、状況確認を終えた兵士たちが戻ってきた姿を見て、咄嗟に身を潜めた。
「兵士長」
「緊急停止の理由は判ったのか」
「辺りを調べましたが、センサーに反応するようなものは見当たりませんでした。恐らく誤作動だと考えられます」丁寧な口調で兵士が答えた。
「そうか。ならばすぐに出発させろ」
そのことなのですが、と別の兵士が言いにくそうに声を漏らした。「停止スイッチはいまも起動された状態にあり、解除しない限りは列車を動かせません」
「なんだって? わたしにも確認させてみろ」車内の兵士が扉へ近づいてきた。「お前はあいつを見張っているんだ。少しでも妙な動きをしたときは迷わず発砲しろ。自分の身を護るためだ」
「しょ、承知しました」見張りを任された兵士は新米なのか、気弱そうな声で答えた。
複数の兵士が車外へ出たところを確認し、レイルは滑り込むように護送列車へ乗り込んだ。同時に囚人を見張っている兵士と目が合う。すぐさま抵抗の意思を見せるかと思ったが、やはり新米のようだ。銃を持つ手が震えている。
「だっ、誰だお前はっ」
「騒がなければお前に危害はくわえない」レイルは空いた左手を前へ突き出して言った。
「まさか、クリスタルベアラー?」銃を握る彼の手が強まるのが見えた。
「彼女から離れろ」
「し、しかし……わたしは、こいつを……」
「離れろ」
兵士は無言のまま銃を落とした。咄嗟に転がった銃を遠くへ投げ捨て、扉を閉める。外の光がなくなり、自動的に車内の灯りが点く。
暗い隅に人影が見えた。無造作に横たわっている。静かに近づくと、耳の辺りで小さな輝きを放っていた。
「」
髪の隙間から頬が見えた。先ほどの兵士に殴られたのか、赤黒くなっている。
「レイルさん?」
「同じ車両なんて奇遇だな」
「どうして、あなたがここに……」
「おかしいな。俺はまだあんたの護衛を任されている身だと思ったんだが」勘違いだったか、と言いながらを起き上がらせる。彼女の両腕は縛られており、足も同様に自由を奪われている。
レイルはすっかり腰を抜かしている兵士から鍵を奪い、足枷と手錠を外した。
「今度は自分で歩けるな」
「は、はい」
レイルはの手を掴んだ。「急いでここを出るぞ。外の連中に気付かれる前に」
「ちょっと待ってくださいっ」
「どうした?」
「わたしを連れ出してどうするつもりですか」
一考する素振りを見せたあと、レイルは口角を上げた。「俺と秘密の事情聴取でも?」
次の瞬間、列車の扉が開いた。外の様子を確認していた兵士たちが戻ってきた。彼らは解放されたといるはずのない第三者であるレイルの姿を見ると、一斉に武器を構えた。
「貴様、どこから潜り込んだっ」兵士が叫んだ。
「どこって、ひとつしかないだろ」
「まさか、貴様もクリスタルベアラーか?」
ベアラーが同じ場所に二人以上いることに、兵士たちは少なからず動揺の色を見せる。
「いいか。大人しく両手を頭に上に載せるんだ。さもなくば撃つぞ」
「いいぜ、やってみな」
先ほどの新米兵士とは大きく違い、彼らは一切の躊躇いも見せずに発砲してきた。レイルはクリスタルベアラーの力で銃弾を反射させる。狭い車内では雑作もない範囲だが、防衛していてもいずれは壁際まで追いつめられてしまう。
そう思っていると、両脇から腕が伸びてきた。のものだ。彼女は自分と同じように両手を前へ突き出し、自らの能力で時間を止めた。目の前の兵士たちはもちろん、放たれた銃丸も宙で静止している。
これにはレイルも思わず口笛を鳴らした。
「やっぱり都合がいいな、あんたの能力」
「こうなってしまっては使わざるを得ません」
「融通の利かないタイプだと思ってたが、あんたのそういうところ、嫌いじゃないぜ」
「生物に限っては距離が離れれば自動的に能力が解除されます。ここから逃げるのであれば、列車のスピードに勝る乗り物に乗らなくてはなりません。きっとすぐに見つかってしまいます」
「あんたも逃げる気満々じゃねえか」
わたしも、とが言った。「レイルさんとは、話したいことがあるんです」
レイルは軽く頷き、列車を出た。監獄砂漠へ向かうだけあって、辺りは荒野だ。都合よく乗り物が見つかるとは思えないが、運はクリスタルベアラーたちに味方してくれている。
道端に魔晶バイクが一台停まっていた。どうやら廃車になったまま放置されていたようだ。エネルギー源である魔晶石が見当たらないが、大した問題ではない。
「、バイクを見つけた。これで行こう」
「それ、本当に動くんですか」彼女は兵士たちを注視しながら横目で訊いてきた。「随分錆びているように見えますけど」
レイルは試しに魔晶バイクに跨り、ハンドルを握ってみた。だが動かない。
「あんたの力で何とかならないか?」
「何を言ってるんですか。いまのわたしはこの人たちを止めるだけで精一杯です。それにわたしの能力は時間を戻すだけで、進ませることはできません」
「だったら動いていた状態まで戻せばいい」
無理です、とはかぶりを振った。「そのバイクは明らかにわたしが戻せる時間の許容範囲を超えています。とても直せません」
「じゃあ、最終手段しかないな」
「最終手段?」
レイルは魔晶バイクを宙に浮かせ、そのまま地面に激しく叩きつけた。
「……随分と古典的なやり方ですね」
「これで大抵の魔晶機関は直ると、元アルフィタリア王国専属の技師さまが仰ってたんでね」
言葉通り、魔晶バイクは大きな音を立てながら命を吹き返した。横たわったまま車輪を回し、今すぐにでも走りたいと叫んでいる。
レイルはバイクを立て直し、軽やかに座席に跨った。ハンドルを握るとメーターが大きく揺れた。エンジンの心配は勿論無用だ。
「、後ろに乗れ」
「待ってください。わたしもどこまで離れたら動き出すか分からないんです」は兵士たちと背後を交互に見ながら、後ろ歩きする。
その様子を見て、レイルは彼女をクリスタルベアラーの力で引っ張り上げた。そのまま後ろに乗せ、エンジンを入れる。同時にの手から光が消え、列車内から銃声が聞こえてきた。それは兵士が自分たちの逃亡に気付く合図でもあった。
「だから言ったじゃないですかっ」
「話なら後で聞く! それより捕まってろ。振り落とされても助けてやれねえぞ」
の両腕が腹に回るのを確認してから、レイルはアクセルを捻った。
待ていっ、と兵士たちが銃弾を放ってくる。だが、二人分のクリスタルを蓄えた魔晶バイクは想像以上の加速を発揮し、あっという間に兵士たちを振り切るほどのスピードを出した。あまりの速さにレイルは咄嗟にスチームゴーグルをかける。
しばらく走ったところでサイドミラーを一瞥する。追っ手はいない。
レイルはクラッチレバーから手を離した。線路上をチョコボで走ったことはあるが、バイクは初めてのことだった。
「、生きてるか」
「なんとか」
「そりゃよかった」
このまま素直に進んでも先回りされてしまうだけだ。レイルは脇道に逸れた。
「でも、どうしてあの車両にわたしが乗っていると分かったんですか?」
レイルは過去に遭った経緯を砕いて話した。
「つ、捕まったことがあるんですかっ?」顔こそ見えないが、彼女は驚きの声を上げた。
「前にも言ったろ。危ないことが好きだからよく捕まるんだ」
「レイルさんもやんちゃするんですね」
「寧ろそれが取り柄だよ」
「そういうところ、すごく羨ましいです」
ほんの一週間会っていなかっただけだが、彼女の声はとても懐かしく感じた。
「それにしても、レイルさんは本当に何でもできるんですね。運転がお上手です」
「前にちょっといじってたんだ。まあ、下手やって壊しちまったんだけど」
「そうだったんですか」
レイルは少しだけ間をおいてから続けた。「後ろに誰かを乗せて走るのは初めてだ」
わたしもです、と彼女が言った。「こんな風に危ないことをしたのは初めて」
普段から堅忍質直なには確かに刺激が強すぎただろうな、と思った。しかし心なしか彼女の声色が浮ついているように聞こえるのは気のせいだろうか。
「チョコボにも乗れるんですか」
「勿論」
はため息をついた。「わたしもチョコボくらい乗れるようにならなきゃいけませんね。徒歩だと何かと不便ですし」
「チョコボくらい、あんたでも乗れるさ」
「そうでしょうか」
「まずはやってみろ。じゃなきゃ何もできない」
「……その通りですね」
の表情を窺おうと首を後ろへ回そうとした時だった。ぎゅう、と腰に巻かれた腕に力が強まるのを感じた。それと同時に背中に何か柔らかいものが当たる。
「レイルさん」
「ん」
「いま、何か言いましたか?」
「いや、何も言ってない」
「本当に?」が顔を覗きこんでくる。
「本当だよ」レイルは逃げるように顔を逸らし、咄嗟に着けたスチームゴーグルを掛け直した。